金壺食堂

あきらかに老舗であることは間違いなく、偶然通りかかったらきっととても気になる。

だけど「精進料理」という言葉に気圧されて、入ってみることができないかもしれない。

那覇市壼屋の一角にある「金壺食堂」の前を通りかかるたび、そんな風に思います。

金壺食堂は、台湾素食(台湾の精進料理)を提供するお店。

1991年からこの場所に佇んでいます。

台湾素食とは、肉や魚を使用しない、いわばベジタリアン系料理。

にんにくや玉ねぎなど、香りが強いものも使用していません。

目次

1.約10種類の野菜やスープが600円で食べ放題!

国際通り周辺のお店では珍しく、朝8時から開店している金壺食堂。

カウンターには朝一番からもやしやキャベツ、わかめ、きくらげなど、瑞々しい野菜がずらりと並んでいます。

調理はすべて蒸しているか、生か、煮込んだもの。

風味付けにゴマ油が使われている料理もありますが、基本的には油を感じないさっぱりしたものばかりです。

ずらりと並ぶ野菜に豆腐、スープ、お粥、白ごはんはすべて食べ放題!

好きなだけ野菜が食べられて、料金はなんと600円と破格です。

この日、朝10時から取材に応じていただきましたが、すでにお客さんは2回転しているとのこと。

観光客から地元客、台湾やアメリカからのお客さんなど、さまざまな方がたっぷりの野菜を求めて訪れます。

席はテーブル席が4つ。

ほとんどのお客さんは訪れた瞬間にトレーを持ち、野菜を取り、それぞれ好きなテーブル席に座ります。

味付けには昆布だしや生姜を使用しているそうで、シンプルながら瑞々しい野菜は噛むほどにお出汁の味が口の中に滲みます。

お粥にはきくらげやお漬物を合わせて流し込むように食べると、すみずみまで栄養と水分が行き渡り、元気がみなぎってくるよう。

これだけ食べて600円。

この金額は、創業した1991年から32年の月日を経て、なんと100円しか上がっていません。

店主の川上 末雄さんに、野菜の金額が上がった今も値上げをしないのはなぜですか?と尋ねると

「正直、輸送費や野菜の高騰で出せなくなった食材もありますが、値段だけはできる限りこのままでいきたいんです」と話してくれました。

2.父の体調不良を救った台湾素食を、たくさんの人に食べてもらいたい!

ぎりぎりでも料金は上げたくない。

そうするのは、創業者のお母さまから譲り受けた想いが根底にあります。

金壺食堂は、1991年に川上さんのお母さまがはじめたお店です。

川上さんのお母さまは台湾で沖縄出身のお父さまと出会い、結婚しました。

しばらくしてお父さまが体調を崩してしまい、療養のため沖縄で暮らすことに。

沖縄で暮らしはじめてから、お母さまはお父さまの体を想い、故郷の健康食である台湾素食を毎日振舞っていたそうです。

お父さまの体調はみるみるよくなり、やがてお母さまは「体にやさしい台湾素食をたくさんの人に食べて欲しい」と思うようになり、金壺食堂をオープンされました。

▲カウンター右端上に、お母さまの写真がたくさん張られています

「母は本当に凄い人でした。とても真似できないサービス精神を持っていて。閉店時間を過ぎてやってきたお客さんも構わず入れて、ひとりのためにイチから料理を作ることもありました。僕は県外の料理店で料理と商売を学んでいましたから、そんなやり方ではとてもやっていけない!と反発する時期もありましたが、無茶な商売も『お客さまのために』とやり続けた母を、今はとても尊敬しています」

川上さんは受け継がれて20年経った今も、お母さまの「お客さんあっての商売」という言葉を大切に、金壺食堂を経営しています。

バイキングの料金しかり、金壷食堂の看板商品である「ちまき」にも、お母さまから受け継いだ想いが溢れています。

3.1日300個売れるちまきは、人に贈りたくなる手間ひまの結晶

竹の葉でおにぎり型に包まれたちまき(300円)。

蒸した落花生が入っているものと入っていないものがあります。

このちまき、なんと1日300個売れるそうで、直接買いに来る人はもちろん、県外からの発注も多いロングセラーなのだとか。

ちまきはもち米と黒米を洗って1日寝かし、別途1日寝かした落花生と台湾から輸入した大豆ハムを2時間かけて蒸します。

蒸し器はお母さまの代から使用する木の蒸し器。

台湾ではこれが主流なのだそうで、木から出る湿気を充満させて蒸すことにより、しっとりもっちりしたお米が炊き上がるのだとか。

木の香りもほんのり香ります。

包み込む竹の葉は、台湾から取り寄せたもの。

乾燥している竹の葉をたっぷりのお湯で湯がき、干すことで、しっとりした手触りと鮮やかな色を出しています。

「手間ひまはかなりかかっていますよ」と川上さんは微笑みます。

「コロナで材料の調達が難しくなったときも、ちまきだけは切らしてはいけないと思いました。あらゆる交通網を駆使してなんとか輸入して作り続けましたね」と話しながら、ちまきを包む手は止まりません。

「毎年沖縄旅行に来ていたけど今年は行けない。せめて金壷食堂のちまきがどうしても食べたい」という県外の人や、経営するお店でちまきを販売している飲食店経営者、父がここのちまきのファンだから食べさせたいという熱心なファンの方など、さまざまな人から毎日注文を受ける川上さん。

お店を通じてお客さんと仲良くなることも多く、先日はリピーターのお客さんが出産したのだと、まるで娘と父親のようなLINEのやりとりを満面の笑顔で見せてくれました。

4.心と体にやさしいお店

金壺食堂には日々、いろんな方が来店します。

連日の暴飲暴食で胃もたれした観光客、とにかくたっぷり野菜が食べたいという地元客、ベジタリアン、台湾出身の沖縄移住民、そして沖縄にくるたびに足を運ぶリピーターと、本当にさまざまな人がお店に訪れるそう。

そんなお客さんひとりひとりに川上さんは丁寧に声をかけていました。

「どう?元気?」「暑いね!痩せた?」「来てくれてありがとうね」。

どうやら金壺食堂は多くのお客さんにとって、体だけでなく心にもやさしいお店のようです。

Photo & Text:三好 優実

(取材:2023年7月)

住所: 沖縄県那覇市壺屋1-7-9

電話番号: 098-867-8607

営業時間: 8時~15時※バイキング/8時~14時(L.O.)

定休日: 木曜(※日曜はちまき販売のみ)

駐車場: なし(近隣にコインパーキングあり)

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