沖縄本島の西海岸側を南北に走る「国道58号」は、戦後まもなく米軍の軍用道路として整備が始まった沖縄を代表する主要幹線道路。
沖縄の歴史とともに変化をとげながら、いまも人びとの暮らしに寄り添いつづけ、地元のひとは親しみを込めて「58(ゴーパチ)」と呼びます。
58(ゴーパチ)を行けば、沖縄本島の名だたる観光スポットや海辺への寄り道もお気楽。
「せまい沖縄、そんなに急いでどこへ行く?」ということで、アメリカのロードムービーさながらに、ゆったりと周辺の景色を楽しみながらのドライブ旅もよいものでは。
そんな1日におすすめしたいのが、恩納村(おんなそん)にある老舗レストラン「シーサイドドライブイン SEA SIDE DRIVE IN」。
以前、NHK「ドキュメント72時間」でも取材された、沖縄屈指のスポットです。
※この記事は2019年12月現在の取材にもとづいたものです。
1.恩納村の海辺の老舗レストランで古いアメリカ映画の世界に浸る
那覇空港から国道58号を40kmほど北上するとたどりつく恩納村。
沖縄本島のほぼ中心部、東シナ海に面したこのエリアは、高級リゾートホテルをはじめとした人気の宿泊施設が集中する沖縄屈指のリゾート地。
「シーサイドドライブイン」はそんな恩納村の一角、建物のすぐ裏手に天然のビーチが広がる絶好のロケーションにあります。
創業は1967年。
古いアメリカ映画に出てくるような大きなネオンサインを掲げた建物の前に乗りつければ、そこは「Welcome to the‘60s!!」
ギンガムチェックのテーブルクロスやレトロな照明、モノクロ写真などなど、店の歴史を感じさせるアイテムが迎え入れてくれます。
スタッフに人数を伝えたら、さあ、座席に案内してもらいましょう。
季節や時間帯によっては空席待ちになることもあるそうですが、店内に飾ってあるレトロなおもちゃや懐かしの映画ポスターなどを眺めて過ごせば、アメリカンレトロな気分が思いっきり高まるはずです。
ゆったりとテーブルを配した店内からの眺めはもちろん至福。
窓際の席に座りたいのなら、あらかじめ予約しておくのもおすすめです。
2.沖縄のチャンプルー文化が垣間見えるクロスカルチャーメニューは、人気のローカルグルメ
メニューは洋食・和食・中華のほか、サンドイッチやハンバーガーまで50種類ほど。
ベーコンエッグ・オムレツ・ステーキ(!?)などのモーニングメニュー(AM8時〜11時限定)以外は、昼夜問わず同メニューを同価格で提供しています。
メニューの一例をあげると、カットした牛肉・ピーマン・タマネギなどを、酢豚風?アメリカン中華風?オキナワアメリカン風?に炒めた「チャップステーキ」があったり、チャーハンが「フライライス」、あんかけ焼きそばが「チャーメン」と英語風の呼び名になっていたり、「エビフライ定食」や「うなぎ丼」があったりと、国境なきバラエティの豊かさ。
「う〜んと…、おすすめを!」とお願いし、まずいただいたのがこちらの「牛尾肉(オックステール)の煮込み」。
スープ・パン or ライス付きです。
フォークでホロリとくずれるほど柔らかく煮込まれたオックステール。
牛の旨みがきいたソースと相まって、大変おいしゅうございます!
こちらは「ビーフカレー」。
日本のカレーでもインドカレーでもタイカレーでもなく、「黄色いカレー」と呼ばれる庶民の味。
食堂や老舗レストランなどによくあるカレーで、店ごとの具材や味わいを熱く語る黄色いカレーマニアがいるほど。
沖縄県民の郷愁をそそるメニューのひとつです。
シーサイドドライブインの黄色いカレーは牛肉&ピーマン入り。
辛さは控えめですが、まろやかさの向こう側にスパイスの存在感もしっかり。
ちょっと高級感のある黄色いカレーといったところでしょうか。おいし。
ご当地B級グルメファンにおすすめの一品です。
3.県民が愛してやまないホームメイドスープと24時間営業のテイクアウトコーナー
そしてこの店のファンの多くを虜にしているのが、この「ホームメイドスープ」。
洋食メニューなどのサイドについてくるほか単品でのオーダーもOK。
豚骨をベースにした濃厚なクリームスープで「これぞアメリカ!」という味わいです。
「シーサイドドライブイン」は一年を通してほぼ休みなく営業。
すべてのメニューが持ち帰りできるテイクアウトコーナーは24時間営業なので、豚骨を煮出す鍋はつねに火にかけっぱなしなのだとか。
詳しいレシピは企業秘密だそうですが、人気の理由が垣間見える気がしますよね。
ちなみに1日平均400杯ほど出るというこのスープ、売り上げが特にすごいのが年末年始だといいます。
実家に帰省するファミリー、初詣に出かける友人同士やカップルなどが、ドライブがてらテイクアウトして体を温めるそう。
老舗なだけに親子数世代にわたって遠方から訪れる客もいるそうで、沖縄のロードトリップには欠かせない店のひとつ。
ここのスープやサンドイッチを楽しみに、子ども時代や青春時代を過ごしたひとも多いのです。
4.「地元の人にアメリカンダイナーの味と雰囲気を味わってほしい」と初代が創業
「シーサイドドライブインは沖縄初のドライブインレストランとして創業しました。今あるメニューはほとんど創業当時からのものなんですよ」
そう気さくな笑顔で店の歴史を聞かせてくれたのは大城保二社長。
創業者であり、現会長の大城保三さんの息子さんです。
(写真提供/シーサイドドライブイン)
「戦前戦後と父はさまざまな事業をしていたのですが、そのひとつに米軍基地内の映画館やレストランの清掃業務があったそうです。そこで知ったアメリカンダイナー(アメリカ風大衆食堂)の味を沖縄の人にも提供したいと、米軍の将校にレシピを習いながら、試行錯誤でメニューを生み出したそうです」と保二さん。
「シーサイドドライブイン」の料理の多くは、言ってみればアメリカ経由の沖縄生まれ。
国境なきバラエティの豊かさも何だかうなずけます。
店内に飾ってあるのは創業2年目、1968年の忘年会の写真。
前列右から2番目が創業者の保三さん。3番目が店を仕切っていた社長の我喜屋宗恵さんです。
我喜屋さんは保三さんとともにメニューづくりに取り組んだ方で、70歳を過ぎるまで現役だったとか。
今でもときどき店に顔を出すというから、思い入れの強さがうかがえますね。
こちらは同じく1968年の写真。店の前にはアメ車が。
そして車が走っている道路が「国道58号」です。
「当時は軍人さん払い下げの車に乗っていた人が多く、ムスタングやキャデラックでやんばる(沖縄本島北部)まで野菜の買いつけに行っていたなんて話も聞きましたよ(笑)」
日本本土復帰直前の創業とあって、当初店の2階には割烹もあったのだとか。
米軍占領下から本土復帰へと、沖縄の過渡期を物語るなんとも興味深いエピソードです。
また当時の沖縄は、1975年の沖縄国際海洋博覧会の開催に向けて建築ラッシュの最中。
創業時から24時間休むことなく営業していたのは、ダンプカーの運転手が深夜でも利用できるようにという配慮だったといいます。
コンクリート製造業も営んでいた保三さん一家は、建築にもこだわりました。
「特別に強度を増したコンクリートを使用し、柱も通常より太めにしてあります。ひさしを高く長く設けてあるのは、雨の日でもダンプカーの運転手が濡れずに降りられるようにするため。店が暇な時はダンプが横づけできるよう、あえて駐車場に白線を引いてないんですよ」と保二さん。
1985年に店を建て替えた際にも、創業時のこだわりを踏襲したそうです。
5.「これからも愛される店をめざして」老舗レストランを守り続ける2代目
「常連のお客さまから、この店はいつまでも変わらずあって欲しいというお声をたくさんいただきます。なかなか大変なこともありますが、昔と変わらぬスタイルで店を守っていくのが僕の役目のひとつだと思っています」と2代目の保二さんはいいます。
店内に飾ってあるミニチュアクラシックカーや昭和レトロなおもちゃなどは、保二さんが幼い頃から集めていたもの。
また、もとは店の壁にひとつだけあったという水槽も数を増やし、空席待ちの子どもたちや観光客も楽しめる場を提供しています。
こちらは保二さんの趣味のバイクを飾った一角。
年代もののレアな国産バイクはバイク好きの間で評判だそうで、ツーリングがてらこの店を訪れる客も増えたのだとか。
さて、古き良き60年代後半の沖縄で産声をあげ、50年以上にわたり沖縄の人びとのお腹を満たし続け、今も県内外にファンを増やし続けている老舗レストランのお話、いかがだったでしょうか。
この店の味や雰囲気とともに、みなさんの顔に浮かぶ笑顔や交わした会話、記念写真などのひとつひとつが、これからも「シーサイドドライブイン」の歴史に重なっていくのでしょう。
どうぞステキな時間をお過ごしくださいね。
Photo&text:藤井 千加
(取材:2019年11月)
住所: 沖縄県恩納村仲泊885
電話番号: 098-964-2272
料金目安: 250円〜1900円
営業時間: イートイン 8:00〜24:00 テイクアウト 24時間
定休日: 年中無休
駐車場: あり
座席: テーブル席82席
喫煙: 全席禁煙・喫煙スペースあり
その他: 年末年始、旧盆は営業
店舗詳細URL: http://www.seaside-drivein.com/