南部地域のおいしいそば店として人気を集める「南部そば」。
創業以来、糸満の地で心のこもった沖縄そばを提供してきました。
そばに込める店主の思いやおいしさの秘訣、さらにその歴史を聞いてみると、地元客にも観光客にも好まれる理由がわかってきました。
1.母親が創業、現在は3兄妹で仲良く運営
「南部そば」は賀数一樹さん、一勝さん、和香奈さんの3兄妹が中心となって運営されています。
創業の地は、現在の店舗がある場所ではありません。
同じ糸満市内ですが、少し離れたところにありました。
始めたのは、3兄妹のお母さん・明子さんです。
大工さんだったお父さんが、ある日お母さんに「夢があるか?」と聞いたそうです。
すると高校のころ飲食店でアルバイトをした経験のあるお母さんは「食堂をやりたい」と答えたそうです。
それを聞いたお父さんは畑だった土地を埋め立て、店を作ってくれました。
その名が「南部そば」。
ただし、現在のような沖縄そばの専門店ではなく、カレー、野菜炒め、トンカツ、沖縄風チャンポンなどを出す普通の食堂として開店しました。1984年のことです。
しかし、いっしょに食堂を切り盛りしていたお父さんが病気で倒れます。
運営が困難になり、やむなく閉店することになりました。
その後、店のあった場所にバスターミナルができることになり、立ち退くことになりました。
そして2007年、現在の場所で「南部そば」が新たにオープンしたのです。
以前は食堂だったのですが、新しいお店は沖縄そば一本で行くことになりました。
新しい店の中心となったのは、長女の和香奈さんでした。
そして、生麺にこだわることをポリシーとしました。しかし、どうやって作ったらいいかわかりません。そこで、生麺の教室に通って小麦の配合から勉強しました。
新装オープンから3年ほどたって、和香奈さんの兄の一樹さんが店を手伝うようになりました。
一樹さんは福岡でWebデザイナーをしていたのですが、家族で沖縄に帰ってきたのです。
ちょうど店のことが新聞に取り上げられて忙しくなった時期でした。
さらに数年後、次兄の一勝さんも沖縄に戻ってきて、店の運営に参加するようになりました。
これで現在の3兄妹体制となったのです。
そして、店の前にそれまでなかった道路ができました。
近くに小学校も開校し、住宅街もできて、お客さんが増えました。
さらにSNSや食べログなどで店の情報が広がり、若いお客さんも多くなってきたといいます。
左から賀数一勝さん、和香奈さん、明子さん、一樹さん。家族で和気あいあいと営むお店です。
2.自家製に生麺にこだわり、ダシは7種の素材を使う
前述のようにこのお店は生麺にこだわっています。
もちろん自家製で、試行錯誤の末2種類の小麦粉を原料とすることになりました。
2017年に大型の自動麺製造機も導入しました。
これは通常は製麺所が使うもので、個人経営のそば店が導入するのは珍しいそうです。
本来は香川県のさぬきうどん製造に使われる機械で、メーカーへ直接視察に行って決めたといいます。
「通常小麦粉に水を加えてすばやくかき混ぜますが、うちはそれを遅くしています。これによって麺に粘りが出るのです」と賀数兄妹はいいます。
また、かき混ぜてできた固まりをローラーで延ばすときに単一方向ではなく多方向から延ばします。これによってコシが出て、手打ちに近い食感が実現するそうです。
最後は揉んで仕上げることで縮れ、スープに絡みやすくなります。
スープは豚骨、鶏、カツオ節、さらにコンブも使います。
しかもカツオ節は3種類も入っていて、風味やコクが出やすいようにしています。
またコンブも2種類使用しているそうです。コストはかかりますが、おかげでコクがあるけどあっさりと飲みやすいスープを実現しています。
また、全国発送にも力を入れているので、観光で来た方が地元へ帰ってからも、気軽にお取り寄せできるのがうれしいですね。
沖縄そば屋さんでは珍しい自動麺製造機。
コシがあってスープに絡みやすい生麺を店で作っています。
沖縄そばの麺は、仕上げに油をまぶすことも多いのですが、このお店ではそれをしていないそうです。
3.絶品のてびち(豚足)に本ソーキ、デザートも好評
トッピングとして一番人気なのはてびちです。
値段は張りますが、鹿児島産の大きな豚足を仕入れ、10年くらいは継ぎ足している秘伝のタレに黒酢としょうがを合わせるなど、手間とコストをかけて作っています。
「この店のてびちが一番うまい」といってくれるお客さんも多いそうです。
大きくてプリプリのてびちは味がしみ込んでおいしく、しかもボリューミー。
全国にファンがたくさんいます。
ソーキは軟骨ではなく、本ソーキにこだわります。
てびちのタレから、黒酢だけを除外したタレでじっくりと煮るので、しっかりとした味わいとボリュームが楽しめます。
本ソーキもボリュームたっぷりで食べ応えがあります。お肉をしっかり食べる満足感が得られます。
ゆしどうふそばのトッピングは、南城市知念のとうふ屋さんから毎日仕入れます。
しっかりとして崩れにくく、スープと合わさるとやさしい味わいです。
デザートの人気メニューはぜんざい。
押し麦が入っているので適度な粘りけがあり、それが黒糖のやさしい甘さをまとっています。
「なつかしいおいしさ」と笑顔になるお客さんもいます。
そんなお客さんの要望もあって、メニューが増えているそうです。
デザートでは一番人気だという黒糖きなこぜんざい。
かき氷には黒糖シロップがかかって、きなこがまぶされています。
イチゴミルクかき氷はお子さんにも人気の一品だそうです。
マンゴーミルクかき氷は、マンゴーの果肉が載り、マンゴーピューレとマンゴーシロップ、さらに練乳もかかったぜいたくな品です。
玄関には赤瓦の屋根があしらわれ、雰囲気を盛り上げています。観光客も喜びそう。
店内はテーブル席と小あがりがあり、お一人様も家族連れもゆったりと食事が楽しめます。
注文はタッチパネルで。
今後外国語バージョンも使えるようにし、海外からのお客さんも使いやすくする予定だそうです。
那覇空港から国道331号線に入るとあとはまっすぐ。
本島南部を巡るレンタカー観光の行き帰りにも便利な場所にあります。
ぜひ3兄妹こだわりの沖縄そばをご賞味ください。
text: 吉田 直人
Photo:根原 奉也
(取材:2020年8月)
住所: 沖縄県糸満市潮崎町3-2-2
電話番号: 098-992-7711
料金目安: 570円~1330円
営業時間: 11:00~17:00
定休日: 日曜日
駐車場: あり
座席: 50席
喫煙: 全席禁煙
店舗詳細URL: http://www.nanbusoba.com/