自然と共に生きる力を育む 沖縄のフリースクール「珊瑚舎スコーレ」
昔ながらの暮らしを体験し、未来を創造する「山がんまり」プロジェクト
沖縄県南城市の豊かな自然に囲まれた場所に、一風変わった学校があります。公立でも私立でもない、生徒たちが自らの意志で「学びたい」と選んで通うフリースクール「珊瑚舎スコーレ」です。ここでは、小学1年生から高校3年生までの幅広い年齢層の生徒たちが、教科書だけでは得られない「生きる力」を、日々の生活体験の中で育んでいます。

珊瑚舎スコーレで特に注目すべきは、「山がんまり」という独特のプロジェクトです。「山がんまり」とは、昔の沖縄の生活を再現し、現代社会では失われつつある知恵や技術を学ぶ活動。単なる座学ではなく、実際に体を動かし、五感を使いながら、自然と共生する術を肌で感じていきます。
古民家再生プロジェクト:歴史を紡ぎ、知恵を未来へ

「山がんまり」の中心にあるのは、なんと生徒たちの手によって再生されている一棟の古民家です。この古民家は、元々首里にあったものが宜野湾市志真志に移築され、その後、珊瑚舎スコーレに運ばれてきたという、まさに「歴史の旅人」。少なくとも2回は解体と再構築を繰り返してきた、非常に貴重な建物です。


しかし、2023年8月には台風の影響でかまど場の屋根が壊れてしまうという危機に見舞われました。この修復作業もまた、生徒たちの学びの場となっています。床や壁、そして屋根から降ろした膨大な量の瓦に至るまで、全てを生徒たちが手作業で解体・選別し、再利用しています。驚くべきは、瓦の選別作業です。一枚一枚の瓦の長さを測り、同じ長さのものを合わせて積み重ねていく気の遠くなるような作業も、生徒たちが協力して取り組んでいます。

古民家の再建には、大人の専門家も協力しています。彼らが中心となって、生徒たちに木材加工の技術や建物の構造に関する知識を伝え、機械類も中高生が自ら操作します。中学生でも工具の扱いに慣れた生徒は積極的に作業に参加し、まさに「みんなで創り上げる」という精神が息づいています。
現代に息づく昔の生活:電気もガスもない食卓



「山がんまり」での生活は、現代の便利さに頼らない、徹底した昔ながらのスタイルを貫いています。特に驚かされるのは、食事の準備です。かまどで炊かれるご飯は、なんと一度に40合!マッチやライターは最初の火起こしにのみ使い、あとはひたすら木をくべ、火の番をしながら、火力を調整していきます。


ガスも電気も使わない、薪の火だけで調理されたご飯は、ひき肉が一緒に入った炊き込みご飯(カマメシドン?)と、しいたけ、昆布、カツオ節で丁寧に出汁を取った汁物。生徒たちが自ら作った温かい食事を、皆で食卓を囲んで味わいます。


食後の時間は、生徒たちが自由に体を動かして遊びます。ドッジボールに興じたり、木登りをしてツリーハウスから景色を眺めたり。エアコンや扇風機といった現代の設備は一切なく、ただ自然の風を感じながら過ごします。都会の子供たちが忘れてしまった遊びや、自然との一体感を、ここでは毎日体験できるのです。

また、植物から得られる知恵も豊富です。動画の中では、「カラキ」というシナモンの一種であるクスノキ科の常緑樹の葉っぱを試食する場面も。

「ちょっと辛いけど、スッキリして美味しい」という生徒の感想は、まさに五感で自然の恵みを感じる喜びを物語っています。このカラキの葉は、お茶にすることもできるそうです。
自主性を育む教育:評価しない評価システム
珊瑚舎スコーレは、公立や私立の学校とは一線を画す「オルタナティブスクール」として、日本全国から「ここで学びたい」と集まる生徒たちを受け入れています。遠方からの生徒のために寮も完備されており、離島の子供たちも安心して学ぶことができます。

この学校の教育は、生徒たちの自主性を最大限に尊重しています。校則は一切なく、何か困りごとが発生すれば、生徒と先生が皆で話し合い、解決策を導き出します。時には意見がまとまらず、議論が白熱することもあるそうですが、それもまた、自ら考えて行動する力を育む貴重な経験となります。

授業カリキュラムも非常にユニークです。月曜日から木曜日までは、通常の学校と同じように国語(日本語)、英語、数学などの科目を学びますが、金曜日は「山がんまり」の日として、終日、古民家再生や自然体験に没頭します。さらに、ウチナーグチ(沖縄の言葉)、やちむん(焼き物)、沖縄の文化や歴史といった、沖縄ならではの専門性の高い授業も豊富に用意されています。


そして、珊瑚舎スコーレの教育理念の中でも特筆すべきは、「評価をしない」というシステムです。先生が生徒を評価するのではなく、学期末には生徒自身が「自己評価ノート」を作成し、自分自身の成長や学びを振り返ります。これは、常に「評価される側」にいる子供たちが、主体的に自分の学びを捉え、自律性を育むための重要な取り組みです。
「山がんまり」が示す、持続可能な未来への道
「山がんまり」の活動は、単なる昔の生活体験に留まりません。「島型循環エコシステム」というコンセプトのもと、昔の人々の知恵を現代に活かし、エネルギーを自給自足し、自然の恵みを循環させる持続可能な社会のあり方を実践しています。

現代社会が抱える環境問題や、子供たちが直面する生きづらさに対し、「山がんまり」は一つの希望を提示しています。自然の中で自らの手で何かを創造し、多様な人々との交流を通じて、子供たちは自己肯定感を高め、困難に立ち向かう力を身につけています。
この沖縄の地で育まれる「生きる力」は、きっと彼らの未来を、そして社会全体の未来を豊かにしてくれるでしょう。
取材協力
名称:珊瑚舎スコーレ
住所:〒901-1414 沖縄県南城市佐敷津波古509−4
HP:https://sangosya.com/
Instagram:https://www.instagram.com/sangosya/
動画公開日:2024/01/29
